講演会報告「岡田淳先生 特別講演会」

2013年3月31日(日)、作家の岡田淳さんが、当教室の生徒と保護者のために、関西から上京してお話をしてくださいました。会場となった東京・青山の<こどもの城>研修室に総勢約140名が集まり、約2時間にわたって行われた講演会の模様を報告します。

開会冒頭に、教室主宰者・工藤順一が岡田淳先生に二つの感謝を伝えました。

「一つめの感謝は、『本なんか読みたくない!』という子どもが教室にやって来たとき、岡田淳さんの本を読むと、彼らがコロッと変わってしまうことです。二つめは、私が本屋で偶然見つけた岡田さんのイラスト集『プロフェッサーPの研究室』 を題材にして、教室でみなさんが作文を書いていることです。つまり私たちは、<読書>でも<作文>でも、長い間、岡田先生の本にお世話になってきました。」

今回の講演は、生徒たちの質問に先生が答えるというスタイルで進行しました。前半は、各教室の生徒が講演会以前に岡田先生に宛てて書いた手紙や作文、質問用紙50通に書かれた問いに、先生はすべて答えてくださいました。後半は、会場にいる生徒が手を挙げて、岡田先生に直接質問をぶつけました。

先生は、どんな質問にも、あたたかい笑顔と柔らかな関西弁で、真正面から答えてくださいました。その中のいくつかをご紹介します。

(質問者(Q)は全員、小学生です)

 

Q. なぜ、小学校の図工の先生である岡田先生が物語を書く人になったのですか?

岡田淳さん:これは、皆さんの質問の中で最も多かったものです。小学校の図工に「物語の絵を描く」という課題があり、「既成の物語は、誰かが知っている場合があるし、山場が一つしかない話が多いから、みんなが同じ場面を描きそうでつまらない。見たことも聞いたこともない話で、山場が幾つもあるものを考えたらいい」と同僚にアドバイスしたら、「じゃ、淳さん、考えてくれ」と頼まれたのです。こうして創ったのが、男の子の好きな<怪獣>と「女の子」の好きな<花>を結びつけて、<花>を食べたら<怪獣>になる話で山場のたくさんある物語、『ムンジャクンジュは毛虫じゃない』です。それが出版社の目にとまり、本になりました。その後は、「次は何を書きますか?」「次は何を書きますか?」と出版社に言われて書いているうちに、物語を書く人=作家になっていったんです。だからぼくは作家になりたいと思って作家になったわけじゃない。小学校の図工の先生をしながら、物語を書くのって楽しいなと思って書いてきただけなのです。

そのうち読者から感想が届くようになると、作者に向かって「あらすじ」を書いてくる子がいるんですね。そして「岡田さんの書いていることは、自然を守りたいということですね。」などとある。そのとき、「おや?」と思ったことが二つあります。一つめの「おや?」は、ぼくは自然を守ろうと訴えたくて、『ムンジャクンジュ…』を書いたんじゃないということ。絵になりそうな、楽しそうな場面を考えられる物語がほしかったから、これを書いたのです。でもその中にたまたま自然を守ったほうがいいという自分の考えが入っていた。『びりっかすの神様』の場合でも、ビリをとるって、どういうことか?って考えたのではなくて、どうしたらその場面が面白くなるかということを考えてきたら、ああいう物語ができたということなんです。

そして、二つ目の「おや?」は、「作者にあらすじを書いてくるやつがいるか!」と、はじめは突っ込んでいたのに、あらすじは10人いたら10人少しずつ違うということに気がついたことです。読み手は自分の関心のあるところを書いてくるのですね。だからあらすじというのは、一つの感想文のあり方なのだと今は思っています。

 

Q:どのように本を読んでもらいたいですか?

読書というのは、読者のものです。自分はこう読んだというのが、すべてなのです。それでいいのだと思います。特に物語は、そのように読み取る理由が自分の中にあるんですね。だから、それがたとえ「誤読」であったとしても、誤読もふくめて、読み手の権利なのです。あの子がそのように読んだということを知ることで、そういう空想が広がるんだ……とわかりあえる。いろいろな人がいることを認めるというのは、そういうことだと思います。「びりっかすの神様」が最後は担任の先生みたいな顔になったと君が思うのだったら、君がそう読んだのだから、それが、正解なのです。

 

Q:本を書くときに注意していることは?

今朝、岡本太郎の彫刻の前をあるいていたとき、「おや?」と思ったんですね。バナナの皮を踏んだときのようなあの感触、右足を出し、左足を出したときに……、「あ、来たな」と。いつもの感触です。そしてぼくは地面から少し浮き上がっていました……、って、嘘ですよ(笑)。物語をつくるときに注意していることは、こういうことです。知っていることや自分の想像できることを積み重ねていく。ああ、そうか、そういうことってあるよね……という本当のことを積み重ねていって、本当ではないところに行くのです。

 

Q:作家をやめろといわれたら、どうしますか?

こんな質問を受けたのは初めてだな。職業としての作家は辞められますが、自分で物語を書いてはダメと言われたら、……漫画ならどうですか? 演劇の脚本ならどうですか?といろいろ聞いて、それもダメだと言われたら……つらいなあ! だからと言って、ぼくは死にはしません。何か面白いことを必ず見つけますよ。

 

Q:集中するコツはありますか?

集中するコツは好きであること。それはコツ以前かもしれませんね。受験勉強のコツは受験を好きになることじゃないかな。

 

Q:岡田先生は、人間とは何だと思っていますか?

今の質問で、この教室がどういう教室かわかりました(笑)。

ぼくは、人間は<物語>をつくる存在だと思っています。動物は、いま、ここだけで生きているけれど、人間はいま、ここにあるぼくらと、一人一人の背景にある今ここにはない何か……明日はこんなことをしようとか……で生きているのが、人間なんじゃないかな。

 

Q:小さい頃から読んでいる本はありますか?

スティーブンソンの『宝島』ですね。中学生の時に読んで以来、十年ごとに読んでいる感じです。生まれて初めて、言葉だけで場面をありありと想像して興奮させられたことを憶えています。そしてこの本は、読む年齢によって、新しい面白さを発見してきました。

また、一度しか読んでいないのにその後何度も思い出すのは、『ドリトル先生』の台所の場面です。元の本には存在しない部分まで思い出します。おそらくその場面は、ぼくを元気づけ、支えてくれ、応援してくれた場面なのです。そしてそこは、人間は信じられる、人間は捨てたもんじゃない、と感じさせてくれた場面だったのだと思います。

「本を好きになる」ということは、その本に、自分を支えてくれる部分があるからなのだと思います。自分がそれを忘れてしまっても、その本は心の中で、一生その人を支え続け、応援し続けてくれる……ぼくはそう信じているのです。

 

質疑応答はまだまだたくさんあって、ここではとても紹介しきれません。「幽霊はいると思いますか?」「プロフェッサーPは、自分がオタマジャクシになるってわかっていなかったのに、なぜ横に水槽が用意されていたのですか?」「もしも引っ越すならどこへいきますか?」「スキッパーは岡田先生に似ているのですか?」……

どれも、とてもユニークな質問で、岡田先生の目を見はらせました。どの生徒も、自分の聞きたいことをはきはきと質問する姿が印象的でした。

岡田先生のお話では、「面白いから」「楽しいから」「好きだから」という言葉が、繰り返し語られます。そして「あらすじは十人いたら十人違う」「読書は読者のもの。ある本を君がそう読んだのなら、それが正解」とも。これらは、教室で私たちが日々実践している読書や作文のキーワードではないでしょうか。

 

 

講演会のあとは岡田先生が、参加者の持ってきた本にサインをしてくださいました。間もなく出版される岡田先生の新作は、100倍の大きさのシュークリームを食べることになった男の子のお話だそうです。新作が楽しみです。

(中島ゆかり)



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