日米の歴史教科書の比較 -クリティカル・シンキングの実践として-

2012年12月2日に恵比寿教室にて「歴史講座」(担当講師:中村一郎)を行いました。講座で使用したレジュメと講師の報告をお知らせ致します。

レジュメ

国語専科教室講師 中村一郎

  1. はじめに
  2. 使用する日米の教科書
    • 『新しい社会6年上(歴史教科書)』東京書籍P.126~139
    • 『アメリカの小学生が学ぶ歴史教科書』ジャパンブックP.194~223
  3. なぜ第2次世界大戦の時期を選んだのか
  4. なぜアメリカの教科書を比較の対象に選んだのか
  5. 国語専科教室の授業中にこの教材を実施する場合の進め方
  6. 本日の歴史講座の流れとねらい
    • 自由な意見交換 → 新しい見解の獲得
    • 自国の教科書、歴史教育を相対化する体験を得る
    • 国によって、歴史事実の評価が異なる体験を得る → 学びの始まり
  7. 日米の教科書の比較(意見交換)
  8. 参考文献の紹介
  9. まとめ
    • 自国の教科書、教育を相対化する体験の必要性
    • 日米の教科書の比較・分析 → 自国の歴史教育へのリテラシー能力の養成
    • 「共感」から「分析」へ、歴史教科書や授業の転換 → 「使える歴史」へ
    • 読み書き教育の転換 → 「起承転結」から「パラグラフ・ライティング」へ

【『納得の構造』第5章「いかに語るか歴史教育の分析力・共感力」との関連】
歴史を理解する上で最も大切な能力

  • 日本の教師の見解=共感力
  • アメリカの教師の見解=分析力

日本では、時系列的に歴史を学ばせる中で歴史上の人物に共感させることで理解を促す
アメリカでは、結果からその原因を過去に遡って探させる段階で情報を取捨選択させ分析をさせる

  • 日本の教師の生徒への主な問いかけは「どのように」
  • アメリカの教師の生徒への主な問いかけは「なぜ」

 【アメリカの教師の手引書に書かれている、生徒に習得されるべき能力の序列】
知識(knowledge)→理解(comprehension)→応用(application)→分析(analysis)→統合(synthesis)→評価(evaluation)・決断

 【アメリカで、いつから「なぜ」と問うようになったか】
1970年代初頭から「なぜ」と問うようになったが、それ以前は日本のように時系列で出来事をたどる説明の方法が主流だった。
→1960年代から70年代にかけて、新社会科(New Social Studies)と呼ばれるカリキュラムが導入され社会科学の学問方法が直接義務教育に採り入れられた。
→知識のあり方が「情報を収集し暗記すること」から「基本構造を使って情報を選び再構成すること」へと大きく変化した。

 【アメリカの教育の変化の社会的背景】
1950年代から70年代のベトナム戦争と公民権運動で動揺した社会的規範の再構築を模索する動きと1965年の移民法改正(ヨーロッパ以外からも移民の流入を認めた)が背景になっている
→公立学校における多文化教育の必要性が高まる。
ただ、学校という1つの完結したシステムの中で複数の価値観を教えることは困難。
→特定の価値観に囚われずに、自前の判断を下す手段として、また議論の中から対立する相手との共通点を見出す方法として分析的批判力(Critical thinking)を教えることが始まる。
※作文教育の世界でもトピックセンテンスを最初に置いて演繹的に論を進める様式が提唱されたのが1965年であった。

参考文献等一覧

【基礎資料】
『新しい社会6年上(歴史教科書)』東京書籍P.126~139
『アメリカの小学生が学ぶ歴史教科書』ジャパンブックP.194~223

【参考文献・視聴覚資料】
『納得の構造――日米初等教育に見る思考表現のスタイル』渡辺雅子(東洋館出版社)
『叙述のスタイルと歴史教育――教授法と教科書の国際比較』渡辺雅子編著(三元社)
『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』加藤陽子(朝日出版社)
『昭和16年夏の敗戦』猪瀬直樹(中公文庫)
『空気と戦争』猪瀬直樹(文春新書)
『空気の研究』山本七平(文春文庫)
『一下級将校の見た帝国陸軍』山本七平(文春文庫)
『失敗の本質――日本軍の組織論的研究』戸部良一など(中公文庫)
『黒船の世紀――あの頃、アメリカは仮想敵国だった上・下』猪瀬直樹(中公文庫)
『広島・長崎への原爆投下再考――日米の視点』木村朗/ピーター・カズニック(法律文化社)
『BORN FREE AND EQUAL』Ansel Adams  ※オリジナルは1944年に出版
『宮武東洋の写真』宮武東洋(文藝春秋)
『東洋宮武が覗いた時代(DVD)』すずきじゅんいち(ワック)
『442日系部隊――アメリカ史上最強の陸軍(DVD)』すずきじゅにち(ワック)
『海と空』水野広徳(横須賀海洋社)
「空襲下の日本」海野十三(『海野十三全集第3巻』に収録)
『太平洋大海戦』ヘクター・C・バイウォーター(KKベストセラーズ)
『火星兵団』海野十三(桃源社)

参加した講師の報告

講座は、日本とアメリカの小学校の社会の教科書を、第二次世界大戦の記述にしぼって比較するという内容でした。ワークショップシートを使って多角的に比較していくと、具体的な発見がありました。とても面白かったです。

私は、まず、アメリカの小学校の教科書を読んだのが初めてだったので、それが日本の高校の教科書のレベル(質・量)と同等であることに驚きました。第二次大戦の背景に対する分析的視点が、ヨーロッパと太平洋で書かれています。章のタイトルは<第2次世界大戦と冷戦>であり、戦後は、ヤルタ会談、東西冷戦、キューバ危機までを扱います。「子ども向け」文章の印象は一切ありません。それにくらべて、日本の教科書は、絵や写真の割合が多く、文章は悲惨な戦争の被害者への同情を中心に、きわめて情緒的です。絵本のような印象で、文章はあきらかに「子ども向け」の、やさしい語り口です。

比較シートの発表に入ると、この授業に自発的に参加したEくん(中1)とYさん(中3)から、活発な発言がありました。Yさんが、「アメリカの教科書は、第二次大戦が<正義のための戦争>であったという主張が一貫している」と発言したのには目を見張りました。アメリカと<正義>――彼女はすでに、この現代社会のキーワードに触れているのです。Eくんは、小3までアメリカの小学校にいたということで、アメリカと日本のの教育方法の差を身を持って知っているという立場から、とても積極的に発言していました。彼自身の問題意識なのです。国専ならではの光景でした。

工藤先生が、「日本のゼロ戦は、その高度な技術(三菱重工)を世界から怖れられた。戦後、大型の飛行機を自国で開発することは許されず、すべてアメリカから購入しなければならなかった。原爆も2種の放射能(ウランとプルトニウム)の人体実験であった。カミカゼ特攻隊などの日本兵の捨て身の行動に戦慄したアメリカが、恐怖にかられて原爆を落としたのだ」と話し、教科書だけでは真実はわからないことを伝えました。

戦争は、何が切っ掛けで引火し、戦争の中でいったい何が起り、国家は勝つとどうなり、負けるとどうなるのか。小・中・高にわたって、社会科という教科は、このことを正面から扱う気があるのでしょうか。社会科が、暗記科目ではないと、いつ生徒は気づくのでしょうか。

日本の教科書を見て、日本が戦争に「負けた」ということも書かない日本の公教育には何も期待できないと思いました。アメリカは、勝戦国であり、正義の戦争を謳えます。国土に戦火が及ばなかったため、心の傷も浅いでしょう。一方日本は敗戦国であり、戦争に関する記述は、アメリカとは根本的に立場が違います。
戦争は、国土と人間を徹底的に破壊し、戦争に負ければ、その文化を剥奪される。近代以前は、戦争に負ければ、母語を取り上げられ、奴隷になったのです。第二次大戦の敗戦においても、日・独・伊は、徹底的に賠償金を支払わなければならず、日本は英語を母国語とすることも検討されたのです。こうした、「戦争とはなんであったか」が、社会科で置き去りにされている気がしてなりません。第一、教える側の私たち自身が、戦争をまったく知りません。優れた文学作品もふくめ、本を多角的に読むことの意味が迫ってきます。

なぜ戦争が始まったのか。考えないではすまされないのでないでしょうか。キナ臭くなっている昨今の情勢で、私たち一人一人が戦争に対して考えていかなければ、あっという間に状況は変わります。人間は同じ過ちを繰り返すのでしょうか。

今回、二人の大学教員も参加しましたが、授業の構成と、国専の生徒たちの活発な発言に、たいへん刺激を受けたようです。
(国語専科教室講師 中島ゆかり)



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