秋の読書探偵最優秀作品賞(中学生の部)「オリエント急行殺人事件」(中1・K君)
2011年「秋の読書探偵 作文コンクール」(主催:翻訳ミステリー大賞シンジケート)にて、教室に通う中1・K君の書いた「オリエント急行殺人事件」が、見事最優秀賞に選ばれました(コンクール中学生の部 応募総数17作、うち最優秀賞1名)。ここに掲載するのは、その全文です。
本文
拝啓 アガサ・クリスティー様
いつも面白い小説を書いていただいてありがとうございます。今回は「オリエント急行殺人事件」を読ませていただきました。
まず、犯人が一人ではなく、イスタンブール発カレー行き列車に乗っていたポワロと友人(国際寝台車重役)以外の乗客十二名全員がラチェット殺しの犯人であることにびっくりしました。こんな奇抜なアイディアにはついて行けません。僕はあなたの小説を読む場合の習慣として、事件の犯人が解明される前に自分の推理を注意深く働かせて犯人を当てることを目指しています。しかし一度としてあなたを出し抜いたことはありません。まったく残念なことです。今日も乗客一人一人の様子か行動をしっかりと頭に入れながら読み進めたのですが、どの人物も犯人に見えてしまい、あなたの仕掛けた罠にはまってしまいました。今、冷静に考えて見ると、乗客の各々が他の乗客のアリバイを証明してくれるので、結果として容疑者全員にアリバイがあることになります。これでは真犯人がわかるわけがありません。こういう状況設定もあなたの筋書きだったのでしょう。もう脱帽です。そう考えると、ポワロが一人ずつ容疑者のアリバイを崩していく推理は絶品というしかありません。
この小説はリンドバーグ事件がモデルだったんですね。犯人のハウプトマンもラチェットも最後は死刑で死にましたが、ラチェットは十二人に刺されたのであまりにも残酷だと思いました。実際の事件は大西洋単独横断で有名になった人の子どもの誘拐事件です。あなたはそこから出発して、年齢、国籍、職業が異なる関係人を十二人に増やし、彼らを狭い列車空間の中にぎゅうぎゅう詰めに押し込めて、自由自在に行動させ、一つの犯罪を完成させました。しかも、事件の真相をポワロに突き止めさせながら、同時に架空の犯人による別の殺人事件のストーリーをでっちあげたのです。論理的であるとはこういうことを言うのでしょうか。あなたの脳みその柔らかさには恐れ入りました。
ポワロが犯人たちを警察に突き出さなかったことにはとても驚きました。確かに、ラチェットは身代金を受け取り、小さな子供を殺し、金持ちになったわけで、どうひいき目に見ても許される人間ではありません。犯人たちには同情されるべき理由が十分にあります。僕も殺人犯だとはいえ、かれらに対して死刑執行人になりたくありません。
物語の伏線のすばらしさを最後に付け加えます。季節外れにもかかわらず満席となっていた列車。十二ヶ所のナイフの刺し傷に強弱があったこと。パスポートについていた油のしみ。乗客に住所と名前を紙に書かせたのは実は左利きを見つけるためだったこと…。トルコのイスタンブールからイギリスのカレーまで、地図で見ると、とても長い道のりです。オリエント急行はすごく豪華だし、途中、ブルガリア、ハンガリー、オーストリア、ドイツ、フランスなどの中央ヨーロッパの国々を眺められるのでそんな汽車の旅にあこがれます。きっとあなたも、そんな旅を楽しんだことでしょう。僕も大人になって時間とお金があったら、あなたと同じ景色を体験したいです。殺人事件だけはごめんですが。






