人間はなぜ人型ロボット研究し続けるのか(高2・A君)

講評(講師:石塚 廉)

アンドリューNDR114 [DVD]

今回A君は、「ロボット」をテーマに「考える教室」へ進級するための論証作文に取り組みました。取っ付き易く、かつ深みのあるテーマ選択だと思います。

この作文は、テーマ選択の性質上、『これで考える力がぐんぐんのびる!! 国語練習帳』 で紹介されている“「もしも」と仮定する”という思考法から出発しています。ただし、「もしも」が行き過ぎると、つい現実離れしたSFの物語になってしま います。そこで、作文を書くにあたって、「必ずロボット研究の現在を下敷きにして議論を進めること」というルールを設けました。 参考文献には記載されていませんが、新書だけではなく、映画「アンドリューndr114(原題Bicentennial Man)」、「手塚治虫アンソロジーロボット傑作集 (2)」 (秋田文庫)なども参考にし、幅広いinputを得ながら問いを立てて取り組みました。

文法面でも論理的一貫性の面でも、度重なる講師から添削に耐え、粘り強く推敲を重ねた4600字の労作です。

本文

『人間はなぜ人型ロボット研究し続けるのか』
高2・A君

研究し続けられるロボット

私たちは、手塚治虫の「鉄腕アトム」や映画「Bicentennial man」に出てくる「Andrew」のような人間そっくりのロボットをパートナーとすることを夢見てきた。現在でも、ホンダのASIMOや、川田工業など が共同開発している「HRP-2」のような人の姿を模したロボットの開発・研究が進められているが、まだ機体の構造も思考プログラムも人間の肉体や思考に 近いというにはほど遠い。だが、もしさらに技術が発展した場合「Andrew」のような人間と見間違えるような家事ロボットが作られるのは、夢物語ではな いだろう。

一般的にロボットとは、比較的単純な作業をくりかえし行なう事ができる装置(新明解国語辞典)、人の代わりに何らかの作業を行う装置の場合、ある工 程なり手順なりを自動的かつ連続的に行う物(Wikipedia)と定義されている。しかし、この文章において私はロボットを、今後の技術革新を想定し、 高度な作業を状況に応じて判断し、自律的に行動できる装置も含めて考えたい。ではこのような定義に基づいた人型のロボットの開発・研究することは、私たち にとってどのようなメリットがあるのか。

人間そっくりのロボットを開発するメリットとは

第一に、ロボットが人間と大差ない姿をし、なめらかに行動できれば、人間の代りの労働力として活動できる場所が増え、複雑な作業を任せることができ るようになる。例えば、人間はロボットに、放射線量が多い場所など、危険が伴う所で行う複雑な作業を任せる事ができる。現在、防災モニタリングロボットが 福島第一原発で活躍している。このロボットは、がれきが散乱し、人体に影響がある放射能がある場所での活動が可能である。しかし、このロボットのマニュピ レーターはマジックハンドの形をしており、人間で言えば二本の指しかない為、物をつかんだり、支えたりする作業の安定感に欠ける。またマニュピレーターの 駆動域が狭く、どうしても死角が多くなり、より多くの行動をとらなければいけなくなる。さらにアームが一本しか無いため、複雑な作業を行うのは難しい。も し、ロボットのマニュピレーターが人間と同じような仕組みをもてば、駆動域が広がり、道具を使った作業もできるようになる。他にも、キャタピラーを使って 動く防災モニタリングロボットは、がれきが平面的に散乱している場所では行動しやすいが、ホンダの「ASIMO」のように二足歩行の手段をとれば、キャタ ピラーでは動きが制限される階段や高く積み重なったがれきなどがあっても、柔軟に行動できる。このように、ロボットの適性を作業環境に合せたロボットを活 用ができれば、作業効率を高めることができる。このような技術革新が進むことにより、仕事の効率化が高められるだろう。

第二に、ロボットの技術を人間の補助に使う事により、体が不自由な人を助ける事ができる。C-Legとよばれる義足はロボット技術を駆使して、C- Legを装着している人を、歩行や階段の登り降り、ジャンプやいすに座ることなどのような動作を可能にしている。つまりC-Legを使うことにより、義足 を使う人も、義足をつけない人の運動とほぼ同じように運動できるようになる。他に、ロボット技術は臓器を作る為にも使われている。例えば、人工心臓は、動 きが悪くなった心臓の代わりにポンプなどを使って血液の循環を行う。それにより、人間の延命を可能としている。これらの技術が、さらに向上すれば、更なる 生活の質の向上や人間の延命に大きく貢献するだろう。これらの技術は、元々人間を助ける為に発展した技術であり、それがロボット製作にも影響を与えてい る。さらにもしもロボットの機体の構造が、有機物で作られ、人間の臓器のような働きをするようになれば、それを人間の人工臓器や義肢として共有することが できるようになるかもしれない。

第三に、ロボットが人間と同じコミュニケーション能力を持つ事によって、ロボットへの命令伝達が容易になったり、人間とロボットの交流がより深く なったりするだろう。現在、家庭ロボットでコミュニケーション能力を持っているのは、英会話ロボットの「チャーピー」である。「チャーピー」は12000 フレーズを認識することができ、片言の会話なら出来る。しかし、「チャーピー」は藤子・F・不二雄の漫画に登場する猫型ロボット「ドラえもん」とは違い、 プログラム以上の会話は出来ない。しかし、「チャーピー」は未発達の技術を逆手にとったロボットである。「チャーピー」ができたのは、英会話のレッスンを するためであり、人が正しく発音しないと反応しない。その為、人は「チャーピー」を反応させようと必死に発音の練習をし、反応するたびに満足感がわく。家 庭内ロボットが、「ドラえもん」のようになる為には、言葉の上だけでのキャッチボール式のコミュニケーションだけではなく、人間の表情や声のトーンなども 考慮し、人間がどういう状況にいるかを理解した上で言葉を選択するという仕組みが必要である。もし会話能力が向上すれば、人間とさらに意志の疎通をするこ とが可能となるだろう。

そのためにはロボットが独自に単語を組み合わせて自在に文章を作れる事や、相手の感情を把握する機能などが必要になるだろう。また発話するロボット も人間と同じように、言語だけではなく、表情や他人との距離、そして声のトーンなどを適切に表現して、話し相手の人間に安心感や落ち着きをもたらす事が大 切である。

このように人間に安心感や落ち着きを与えるという側面に注目すると、家や病院、学校など人が気軽に集まれる所でロボット・セラピーとしての役割を果 たし、様々な理由から心の病を抱えている人達をより多く助けられるのではないだろうか。さらに専門的で高度な判断が可能なカウンセリングロボットが作られ れば、社会に有益だろう。しかし、それは容易ではない。なぜなら、ロボットに依頼者の悩みについてプログラムされた通りに対応するだけではなく、ケースバ イケースとしてとらえる判断の柔軟さをもたせるためには非常に高度な技術を要するのではないかと考えるからだ。だが、心のケアの為のロボットを必要とされ る所に配置することによって、年間三万人を超すと言われている日本の自殺者を一人でも多く減らせるのではないだろうか。このように人間のような思考プログ ラム、会話機能を持つロボットがいずれ開発されれば、心のケアが必要な人間をさらに助けられるだろう。

ロボットの自律性がもたらす懸念

ここで一つ懸念が生じる。それは、ロボットに自律性を持たせるべきかという問題である。人間と同じ思考ができるような思考プログラムを持つロボット の開発を進めるうちに、もしロボットが自発性や独立性を持ったとしたら、映画「ターミネーター」や「マトリックス」のような人類に反抗する機械が、将来人 間に危害を加えるかもしれない。前に述べたように、ロボットに自由に考えを述べる事を許すということは、ロボットはそれぞれ異なった考えを持つ事になる。 その中には、人類に敵対するロボットが現れる可能性がある。

それに対し、SF作家のアシモフはロボット工学三原則(1.ロボットは人間に危害を加えてはいけない。しかし、人間にせまる危険を無視して、人間へ の危害を犯してはならない。2.ロボットは、第一条を破らない限り、人間の命令を絶対に守らなければいけない。3.ロボットは第一条と第二条を破らないか ぎり、自分を守らなければいけない。)を提示している。この三原則をロボットに守らせる事にすれば、ロボットが人間に対して敵対するという最悪の事態を回 避できるだろう。

しかし、変更不可能なプログラムは実現可能なのだろうか。プログラムを人間が作った以上、他の人間にそのプログラムを書き換えられるのではないか、 という懸念が現れる。現在でも、コンピューター・プログラムは改変される危険性があるが、大多数の人は、プログラムを改変されないようにするための手段を 持っているので、コンピューターを使ったり、購入したりすることをやめていない。ロボットの抱える問題もこれと同様である。つまり、ロボットのプログラム が改変される危険性を持ちながらも、ロボットを利用する人が改変されないための技術の導入を怠らなければ、その可能性は少なくなる。だが、コンピューター を管理するシステムが向上するにつれ、システムを改変する技術も向上するので、いたちごっこは続くだろう。

だが、さらにここでもう一つ懸念が生じる。それは、人間が間違いを犯す存在なので、その命令をロボットはただ遂行するべきなのかという疑問である。 例えば、映画「ロボコップ」では、悪事を働く会社から出される都合のいい命令が、治安を守るロボコップを窮地に追い込む事もたびたびある。ロボットがプロ グラム通りに行動するとすれば、間違いとは、ロボットに指令を出す人間が原因である。もしも、先ほど述べた人間そっくりの思考プログラム、会話機能を持つ ロボットが開発されたならば、ロボットに命令する人間の指令が間違っている可能性がある場合、そのロボットの判断を人間に伝え、人間をサポートさせればよ いのではないか。

だが、それを受け入れるかどうかを判断し、実行するのはあくまでも人間でなければならない。なぜなら、ロボットが人間の判断を超えて行動した場合、 ロボット工学三原則に反する可能性があるからだ。そうすることで、ロボットが暴走する事を防ぎ、人間によるエラーを防止する事ができるだろう。

以上のような二つの懸念に対して、私はロボットに自律性を持たせるのは良いが、ロボット三原則を守らせる必要があると考える。ロボットにただ人間の 命令を聞くようプログラムすれば、悪意ある人間によりロボットが悪用される可能性がある。同時にロボットの自律性を制限しないと、反人間の考えを持つロ ボットが人間に危害を加える可能性がある。その為、人間の安全を保障するシステムが必要不可欠である。そして、それは厳重に守られる必要がある。そうすれ ば、人間はロボットからの恩恵を、安心して受けられるだろう。

ロボットの開発は人間に生活の豊かさと人間とは何かという疑問への解答をもたらす

人間はロボットがいずれ人間の経済活動を支える労働力、医療面での補助、精神的なささえとなるパートナーとなることを望み、ロボット技術の向上に心 血を注いでいる。しかし、ロボットがだんだん人間と似てくることで、ロボットにどこまで自律性を持たせるかが疑問となる。研究者達は、ロボット技術を向上 させることと、それがもたらす効果について考えなければいけない。

さらにこれらの研究は、人間の肉体や精神はどのような仕組みをもっているのか、言葉を獲得するということはどういうことなのかという問題の答えにたどり着き、人間をさらに理解することに繋がるだろう。

参考文献

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