ナノイー製品から考える記号的消費の形(高3・Oさん)

講評(講師:石塚 廉)

今回Oさんは、パナソニックの「ナノイー」製品を購入するという身近な体験から、〈消費〉をテーマに小論文を書き上げました。本文では、商品を購入する人々についてグループ分けしながら丁寧に分析を進められています。これは、「これで考える力がぐんぐんのびる!!国語練習帳」で紹介されている「整理して分類する=カテゴライズする」思考方法を駆使したよい例です。

「では、ナノイー商品が象徴する「社会」とは何だろうか。」

この問いについて、Oさんは、景気が低迷している社会状況を踏まえ、「時間も費用も低コストで自分を磨きたい」という人々の欲求を読み取ったようで す。この小論文の肝は、ナノイー製品から社会を読み取る視点のおもしろさにあると思います。ですから、この点についてさらに考えを掘り下げていくと、より 良い小論文になります。たとえば、ナノイーの「目に見えない不快を除去・緩和する」という特徴に注目してみましょう。

近代以降、科学の発展に伴い、私たちは病気の原因となる細菌やウイルスといった「目に見えない不快」を次々と発見してきました。また現代人は、「目 に見えない不快」にストレスという名を与え、それを感じ、苛まれています。震災以降、私たちは放射能という「目に見えない脅威」にさらされていますが、私 たちが受けているダメージは、はたして放射性物質そのもののためなのか、それによる過度の精神的負担のためなのか簡単に区別することができません(長期的 には前者、短期的には後者なのかもしれません)。このような社会で生活する私たちにとって、「目に見えない不快を除去・緩和」できる製品とは心強い「お守 り」となっており、人々に求められていると考えられそうです。

本文

『ナノイー製品から考える記号的消費の形』
高3・Oさん

私は最近、家でパナソニック・ナノイーの製品であるドライヤーとスチーマーを購入した。しかし、実際に使ってみて効果がはっきりと目に見えるわけで もなく、そもそもナノイーについてほとんど何も知らなかったため、ナノイーについて調べてみることにした。そして、現在は様々な科学技術が発達し、次々と 新製品が発売されているが、なぜ人々は私と同じようにその商品についてほとんど何も知らずに新製品を買ってしまうのだろうかという問いをたてた。以上の問 いについて考えてみる。

まず、「ナノイー」について調べてみる。「ナノイー」という言葉は、ナノテクノロジーの「nano」と、電気を帯びたという単語 「electric」の「e」とを合わせた造語で、パナソニック独自の新技術である。パナソニックのサイトによると、空気中の水分から生み出される微粒子 イオンで、一般的なイオンと比べて約6倍長持ちであるため、広範囲に届く。水分量はマイナスイオンの約1000倍である。効果としては、空気中のカビ菌ま で抑制、脱臭などと、目に見えない小さな不快の原因を抑制し清潔感を保ち、また、弱酸性のため肌に優しく、乾燥を防ぐため保湿効果にもなる、などと様々な 効果があげられる。そして、電気の力で殺菌するプラズマクラスターに対し、ナノイーはウイルスを細かい水の粒子で包みこんで殺菌するため、非常に経済的で ある。

では、どのような人々がナノイーの製品を購入するのかについて考えてみる。テレビCMなどのメディアや周囲の評判からのその商品についての情報や流 行を知っていて、実際にその商品を試してみたことを前提とすると、次の四つのグループにわけられる。一つ目は、以上のような効果を知っていて、さらに効果 を体感できる人々。二つ目は、効果は知っているが、体感はできない人々。三つ目は、効果は知らないが、体感できる人々。そして四つ目は、効果も知らず、体 感もできない人々。この四つである。

次に、この四つのそれぞれのグループの人々についてもう少し詳しく考えてみる。まず、一つ目のグループは、効果を知った上で購入し、体感できたのだ から、本来の消費形態である。ただ、中には、事前に効果を知っていたから体感できたように感じたという人々がいるのではないか。そのような人々は、ほぼ二 つ目のグループと同じである。なぜなら、その価値を支えているのが「情報」だからだ。二つ目のグループは、効果を知っているが体感できなかったのだから、 企業を信用しきっている人々や、情報に価値を求め、鵜呑みにしてしまっている人々だと考えることができる。三つ目のグループは、効果を知らずに体感できた のだから、自分の感覚を頼りにその商品の価値を認め、買った人々だ。四つ目のグループは、効果を知らず、体感もできなかったのだから、周りに影響されて 買った人々である。

しかし、実際に商品を試すことなくその商品を買う人々もいるだろう。最近では、ネットショップで商品を購入することも多くなってきている。このような人々は、前述の第二・第四グループと同じように、企業や周囲の人々からの情報に影響されて購入したと考えられる。

では、なぜ現在の人々は、自分で試しもせず、次々と新製品を買う傾向にあるのかについて考えてみる。ナノイーもそうであるが、新製品は消費者に好ま れる。なぜならば、新製品が新しい「社会」の価値観を象徴しているからだ。つまり、自分が本当に欲望しているのではなく、自分の欲望は「社会」というもの を媒介し、模倣し、従属することで自らを主体化しているのだ。これは、『ちくま評論入門』(筑摩書房)の「「誰か」の欲望を模倣する」の中で述べられてい る。

では、ナノイー商品が象徴する「社会」とは何だろうか。現在、日本の社会は毎日忙しく、多くの人々にとって、自分のための時間を作るのは難しい。し かし、そのような状況の中でも、少しでも自分を磨きたいという人が多いため、家で気軽に利用できるような商品が作られるのである。つまり、そこに「自分を 磨きたい。しかし、時間的にも経済的にも低コストにしたい」という人々の思いを読み取ることができる。

このようなことから考えてみると、ナノイーの商品は「必要」だから買うという本来の消費形態から、その商品が提案する新しい「社会」の価値観に価値 を認めるという記号的な消費の形になっているのではないか。あるいは、商品本来の価値よりも、自分がブームとなっている商品を手に入れ、模倣とする社会の 一員になれるかどうかという満足感が大きな価値基準となってしまっているのだ。

これらの人々は、自分が商品を使って覚える感覚よりもその商品が発信する情報=広告を重視するので、商品を試さないで買う人々、つまり先程の第二・ 四グループに多く見られるだろう。そして第二グループは、その商品が提案する社会の価値観が、第四グループは、自分がその社会に参加することそのものに満 足感を得ることが価値基準となっているのだ。

参考文献

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