今日のアイドルに対する考察(高2・A君)
講評(講師:木谷紗知子)
自分の身の回りにある現実をどのように読むのか。
A君はしばしば洞察力を感じさせることばを口にします。それにはご両親の影響が大きいと思われます。いろいろな事柄について、通り一遍でない深い会話がご家庭で日常的に交わされているようです。
発したことばは、近くにいる人にいくつかの印象を残し、大概はしだいに忘れられてしまいます。しかし、書くことによってことばは鮮明な形で残ります。
この論証作文において、より深く考察し、述べればさらに完成度の高いものになるだろうという部分はいくつかあります。しかし、A君は、大音量で、こ れでもかというほど世の中に流布しながら、あっという間に姿を消してしまうことの多い、芸能の世界の「人気者」について、一つの考察を、自分のスタンスと ことばで、確かに書き留めたといえるでしょう。
A君は身の回りにある「虚構という現実」をこのように読みました。
本文
私は『鉄道ファン』という名のオタクであるが、世の中の他のオタクの動向にも目を向けている。世の中には『アイドルオタク』という種類のオタクも存在する。私はアイドルという存在に対して中立的な立場にある。つまり、興味はあるがファンではない。
アイドルという存在の中でも特に、オタク向けの女性アイドルはごく一部の人間に愛され、崇拝されてしかるべき、カルト性や宗教性のある存在だった。 ゆえに、一般の人が近寄り難い雰囲気があった。しかし最近、AKB48なるアイドルグループの進出が世の女性アイドル観を変えつつある。AKB48はアキ バ発であり、かつ小シアターで定期的な公演を行うというオタク系アイドルの伝統的なスタイルを持つグループである。ところが、流行の結果、多数の人が AKB48の『にわかファン』になっていると見られる。つい先日、オリコンチャートのCDシングル発売初週時点の売上ランキングで、AKB48のシングル CDはMr.Childrenの出した120万枚という記録を塗り替え、133万枚という驚異的な記録を打ち立てた。つまり、多様な人にとっての『トレン ド』として認知されつつあり、オタク向けアイドル特有のカルト性や宗教性のような、『危険物の雰囲気』が消えた。一部の人間だけに愛されてしかるべきオタ ク系のアイドルが、万人に愛される存在になりつつあるということが面白いと思う。
では、なぜ、AKB48がこれほどの人気を獲得できたのか。それは、プロデューサー秋元康の力によって彼女らが人目につきやすいところに現れるよう になったからだ。TVをつければCMに、バラエティ番組に、ドラマに出ている。そのことにより、AKB48というグループの存在が広く多くの人たちに知れ 渡ることになったのである。
ここで、彼女らをそのような大舞台に出した秋元康というプロデューサーの存在を考える。彼は長きに渡り、放送作家として芸能界で活躍しており、過去 に『オニャン子クラブ』なるアイドルグループを手掛け、一世を風靡した。また、彼の実力を窺い知るひとつの事柄として、長寿と言われる番組、『笑っていい とも』『とんねるずのみなさんのおかげでした』等のエンドロールには必ずといっていいほど彼の名前があるという事実がある。つまり、彼の人気者を作りだす ノウハウと技術の集大成がAKB48なのである。
では、秋元氏は、AKB48を今のような人気者にするためにどのような戦略を用いたのであろうか。それは、オタク向けに行っていたイベントをあえて 一般の人々に対しても行うようにしたことだ。例えば、握手会や毎日シアターと呼ばれる小ホールで開演されるライブなどである。これらのイベントはアイドル 趣味に特に興味のなかった人には新鮮に感じられるという効果を生み、知名度を増していったと思われる。
また、多人数のグループという形態をとって活動していることも彼の戦略の一つだ。そのため、少人数のアイドルグループに比べ『お祭り』感を演出しや すい。TVをつければ彼女たちが何らかの形で映っている。メンバーの大半は十代後半で構成され、制服を着て大勢で楽しそうに活動する彼女らは、まるでTV の中で高校の文化祭のような爽快さのある何かをやっているように見える。
多人数である利点は他にもある。それは多数のメンバーの中から、自分の好みの人を見つけ出すという楽しみがあることだ。実際にファンによる人気投票 が行われ、大好評を博していたことは記憶に新しい。多数の中から少数を選びだすという行為において、もちろん規則や決まりはない。これは日頃、何かしらの 縛りの中で生きる現代人の、解放されたい、自由に何かしたい、という深層心理に働きかけているのではないか。
以上の事象から考えられる結論、それは、秋元というプロデューサーによって多くのメディアに露出することになったAKB48は、オタク向けのイベン トが一般人には新鮮であったこと、大人数の形態をとっていること等により、一部の人間に愛される存在ではなく、多くの現代人に愛されるアイドルになったと いうことである。
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