向上心を見つけ出す(中3・Iさん)

講評(講師:木谷紗知子)

「評論はそれぞれの筆者が具体的な世界から抽象化された概念を作り、その概念によって今度は再び世界を解釈しようとする試みなのである。」(ちくま評論入門P.20・評論への招待)

Iさんは毎週金曜日の六時半に、ラケットバッグを背負って、少し上気した顔で、教室に現れます。現代の中高生の忙しさはたいへんなものです。その中で、なんとか時間を作って国語専科教室に通ってくれています。

Iさんは、自分が所属しているテニス部が、おしゃべりばかりしているだらだらしたものから、本格的なテニス部に変わったことを経験しました。

なぜ、変わることができたのか。それは、直接的にはある部員のお父様の作ってくださった練習メニューのおかげだが、実は目に見えない「向上心」が、大きく作用したのではないか。

そのように考えたIさんが、「向上心」を軸に、テニス部が変わったことを再構築した試みがこの「論証作文」です。

「ちくま評論入門」の冒頭の評論「第一次的現実」における外山滋比古のことばを借りれば、第一次的現実(=われわれがじかに接している外界)から生まれた、創造的な「汗のにおいのする思考」であるといえるでしょう。

読み応えのあるディテイルはIさんの中からこんこんと湧くように出てきました。三年半国語専科教室で学んできたIさんにとって文章を書くことは呼吸 をするように自然なこと。鉛筆はさらさらと動きます。ただ、ある程度の長さのある論証作文を書くのは初めてで、論理的に整理するのに少し苦心しました。

自分で見つけた素材を使い、論文を書くことへの初めの一歩を踏み出したIさんの、さらなる成長を期待しています。

本文

『向上心を見つけ出す』

わたしの所属するテニス部は別名おしゃべりクラブと呼ばれていた。部活動中はみんなでいつも喋っていた。部活に行っても友達と話すことくらいしか楽 しみがなかった。目的のないおしゃべりなので、時にはしゃべることすらだらだらしてしまって楽しくなかった。学校の敷地がせまく、テニスコートが一面しか ないからかもしれないが、その貴重な一面のコートが使える時さえ練習する気配もなかった。私が今、その理由を考えてみると、うまくなろうとする各々の向上 心の行き場がなく、しかたなく延々としゃべっていたのかもしれない。

向上心を活用することで、自分自身を成長させることができる。向上心は誰でも元々持っているものだと思う。持っている向上心を見つけ出し、大切に育てるべきだ。

しゃべってばかりでろくに練習をしないテニス部のみんなも実は向上心を持っていた。それは試合に勝つためのさまざまな動きから推測できる。勝ちた い、ということはより良いものをめざす、つまり向上心がある証拠だろう。日ごろの練習では、試合相手の弱点を探したり、コーチが自分に教えてくれた技は他 の人には教えなかったりということが見られた。試合においては、ほんとうに熱くなって戦っていた。たとえば、試合はセルフジャッジのため、ラインぎりぎり のボールのジャッジについてもめることがしばしばある。スコアが30-40と追い詰められている試合で、相手からのサイドラインの際どいボールを返せな かった場合、ほんとうはインだが、アウトだとジャッジする人がいる。故意にしている人もいるが、追い詰められていると、自分に有利なように見えてしまう場 合もある。そして、試合に負けると、私自身経験があるが、どうしても涙が止まらないのだ。

おしゃべりクラブが本格的なテニス部に変貌したのは、練習メニューの登場によってだ。三学期の始めにサブキャプテンのテニスが得意なお父さんが練習 メニューを作ってくれた。練習メニューにはボレーやストロークの練習、球出しからの打ち込みなど総合的な力をつけるのに必要なトレーニングがきちんと入っ ている。練習メニューにそって練習していると、自分でも上達していることがはっきり感じられる。すると、もっと上達したくなり、今は部活に行く前から心が 浮き立つ。テニスコートでのみんなの姿も以前とはまるで違い、輝いているかのようだ。

私たちは練習メニューによって向上心を活用する機会を得た。しかし、向上心が埋もれたままで気付かずにいるひともいるかもしれない。わたしのテニス部での経験を基に、向上心を見つけ出し、育てる方法を以下に述べる。

まず、「くやしい」と感じる時は向上心を見つけるチャンスだ。なぜなら、くやしいという気持ちはその状況に満足していないということだからだ。納得 できない状況をどうにかしようと考え始める、そこにはすでに向上心が働いているのではないだろうか。実力のある友達が試合で初心者に負けた。敗因は、その 友達の度重なるミスによる自滅だった。負けが決まった時、友達は大泣きして、見ている私たちが驚くほど悔しがっていた。そして、試合翌日の練習から見違え るように気合が入り、激しい練習を重ね、強かった友達がさらに最強と言えるほどになった。

そして、「つまらない」と感じるときは向上心を育てるチャンスだ。テニス部がまだおしゃべりクラブであった時、わたしは心底つまらなかった。ボール も拾わず、基礎トレーニングもしない。たいへんなことは何一つないのに部活に行く足は重かった。それは、向上心をきちんと働かせることができなかったため だと考えられる。ところが、本格的な練習をすることでつまらなさは完全に消えた。テニスの本格的な練習は、体力的に、また精神的に努力することと、何かが 達成できることを繰り返す経験であった。ここには向上心がしっくりとなじみ、定着していった。

向上心をはっきり示すと、周りの人から悪口を言われたり、仲間外れにされたりするかもしれない。努力をしたくない人が、だれかひとりだけうまくなる と不愉快だという理由で、向上心をはっきり示している人が結果を出すことができなかった場合に悪口を言うなどということがあるからだ。しかし、そんな人た ちの目を気にすることで、自分のやりたいことを実現させられないことはもったいないとわたしは思う。

埋もれている向上心を見つけ出し、大切に育てるべきだ。そうすれば、なにげない日常が輝き出す。

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