伊坂幸太郎の世界(高2・K君)

本文

伊坂幸太郎の世界
高2・K君
オーデュボンの祈り (新潮文庫)

老若男女に幅広い読者層を持ち、その著書で多くの賞を受けた実力、人気ともに申し分のない作家、伊坂幸太郎。私も彼の著書の愛読者であるが、彼の 書くどの作品も一貫した面白さがあり、飽きずに何度も読み返すことができる。また、一度読み始めると、そんな気がなくても時間を忘れて読みふけってしまう ことがよくある。いったい何が彼の作品をここまで面白くし、また何がここまで多くの読者を魅了しているのであろうか。彼の作品を読むとその答えは自ずと出 てくることであろう。

彼の作品の面白さは、現実と非現実、過去と現在がバランスよく混ざり、個性的な登場人物達によってテンポよく物語が展開されていくところや、同一 人物が複数の作品間を行き来するリンクがあるところ、また、そのストーリー展開の軽快さ、内容の痛快さなどにあり、多くの伊坂幸太郎ファンを生んでいる。 次の三つの視点に着目してもう少し詳しく考えたい。

第一に、非日常的なものごとが現実のものとバランスよく混在している点について考える。彼の描く世界は、全くの空想でも実際に存在するものでもな い。非現実的なものが我々の生きる日常の中にあたりまえのように登場してくる、ありそうでない世界である。伊坂幸太郎が作品に入れるその非現実の部分に よって、物語は一層面白くなっている。例えば、その非現実的なものは、作中に登場する人物達の中にいる。『死神の精度』の主人公である音楽好きな死神や、 『オーデュポンの祈り』に出てくる喋るカカシなどである。彼らはひどく現実離れした存在であるように感じられるが、彼らのような現実離れした存在が、あた りまえのように作品の中に登場してくるのである。それはまた、辞書の為に本屋を襲うという『アヒルと鴨のコインロッカー』の出来事にもいえることである。 これらのような超現実が織りこまれていることが、伊坂幸太郎の作品の面白さの一つである。

次に、彼の作品の構成に着目してみる。伊坂作品は、一つの物語が様々な登場人物の視点から描かれるだけでなく、現在の話、過去の話と、章毎に描か れる時間も前後する。過去、現在の話が様々な視点で進められていくが、最後には各々の話がパズルのピースのようにきれいにはまっていくのである。その伏線 の回収の手際のよさが、我々読者にとっては、たまらなく面白いのである。『アヒルと鴨のコインロッカー』はそのいい例で、物語の初めに描かれた主人公たち の行動の謎が、話が進むにつれ明らかになっていき、途中ではさまれた過去の出来事や会話の意味が、最後にはすっかり分かるようになっている。このパズルの ような展開の仕方も、彼の作品を面白くしている。

最後に、作品間のリンクも忘れてはならない。例えば、『オーデュポンの祈り』の喋るカカシは、『重力ピエロ』や『ラッシュライフ』といった他の伊 坂作品にも登場する。すると、『オーデュポンの祈り』を読んでいて喋るカカシのことを知っている人は、『オーデュポンの祈り』と『重力ピエロ』や『ラッ シュライフ』の間の話を、自分なりに想像を巡らせて考えることができる。そして、一つの作品の面白みをその作品だけで完結させるのではなく、また別の作品 にもつなげていくことができる。

多くの人々に愛されている伊坂作品であるが、一方で結末をはっきり書かない物語の終え方に納得がいかない人がいるかもしれない。『オーデュポンの 祈り』を例にとってみると、最後に主人公たちがどうなったか明らかにされず、過去の話で物語が締められているのである。しかし、これもまた伊坂作品の魅力 ともいえる。なぜなら、どんなに面白い小説であっても、その結末が凡庸だとがっかりさせられことがあるからだ。また、結末をはっきりと書かないということ は、読者がその後を想像できる余地を多く残しているということでもあり、一つの作品をより楽しむことができる。

伊坂作品は、ここで挙げたように、程よい非現実が織り交ぜられており、独特のプロットを持っている。そのうえ、作品間のリンクという、読んでいて 楽しくなるような要素が多く盛り込まれている。これらが、伊坂作品の他にはない面白さを生み出している。彼の作品が多くのファンをもつのは至極当然のこと である。

講評(講師:内田由紀子)

K君は、高校生になってから、初めて体験した満員電車の解消方法を考えたり、自分が身近に感じたことを作文に書いてきました。今回は、よく読んでいる伊坂幸太郎の小説について考えることにしました。

まず、K君は伊坂幸太郎作品の魅力について、非日常と現実がバランスよく混在していること、構成の面白さ、作品間のリンクがあるので読者を惹きつ ける、としました。そして、物語の結末が曖昧でつまらないという反対意見を考えました。その反証として、物語の結末を想像する余地を残すことは、納得させ る以上の面白さを創り出していると考えました。

これからの課題は、今回初めて書いた反対意見に対する反証部分です。彼は、この反対意見に何を書くかいくつか候補を考え、「物語の曖昧さ」を選びました。作者が読者に最後の結末を委ねる意図について、もう少し詳しく書くことによって、主張に説得力が増します。

この「伊坂幸太郎の世界」を書くにあたって、K君は自分が書いた文章を何度も検討し、気になった箇所について作品を読み返すという作業を丁寧に繰り返しました。これからも、彼が深く考え、説得力のある文章を書く努力を続けていくことを期待しています。

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