3D映像は普及するか(高2・Y君)

『3D映像は普及するか』
高2・Y君

今、3D映像がブームになっている。これまで2Dが映像の主流であり、当たり前だった世間になぜ3D映像が入ってくるようになったのか。そのきっ かけとなったのは、3D映像で制作された映画である。『アバター』や『アリス・イン・ワンダーランド』、『トイ・ストーリー3』を始めとする3D映像で上 映される人気映画が続々と出てきたことによって、3D映像が注目されている。

ところで、その3D映像とは何なのか。それは、通常の2D映像と比べ、より立体的に映像を見ることができ、空間的な臨場感を味わうことができる映 像である。たとえば、ガラスが割れる場面があったとする。その時、2D映像では、平面的に見るだけだが、3D映像では、細かい破片が飛んでくるように見え ることによって危機感を味わうことができる。

さて、このような3D映画を家庭でも楽しむことができる「3Dテレビ」が家電メーカー各社から次々と発売されているが、今後、私たちの日常生活で3D映像は、どのような役割を果たすのだろうか。

私は3D映像の技術は既に実用化されていて、将来的な可能性も認めるが、「3Dテレビ」としての家庭への普及はまだ難しいと考える。その理由は、 3D映像を見ることによる目の疲れや映像酔いなど、使用者への人体への影響があるという問題があるからだ。その問題が解決しなければ、家庭への普及は難し く、一時的なブームにしかならないだろう。

まず3D技術を取り入れた映画やテレビを見ることによる健康面の問題について説明する。3D映像を見た人のなかで強い頭痛を起こしたり、吐き気が したりした人が数多くいたことから、国民生活センターから見る時には注意するようにという呼びかけがされている。私自身も3D映像を見て目の疲れがした り、頭痛が起きたりすることがあった。また、みずほ情報総研による「3Dテレビに関するアンケート」調査結果では、アクティブシャッター方式による3D映 画鑑賞者の4割(43.1%)が「眼の疲れ」、約1割が「3D酔い」(12.7%)、「頭痛・肩こり」(11.4%)を3D映画の悪かった点としてあげて いる。

では、なぜ目が疲れたり、映像酔いがおこるのか。それは、まだ明らかになっていない。しかし、私たちが日常経験する視野と、3D映像が全く同じで はないため、身体に何らかの負担があるのだと考えられる。3D映像を作る際は、立体的な映像を見せるために撮映の時から左右それぞれの視点から見える映像 を撮る。現在多く利用されているアクティブシャッター方式では、メガネをかけることによって左右の映像を分離させ、左右像を同時に表示せず、僅かな時間差 で交互に表示することで立体的な映像を見せる。このような映像の見え方は、普段の私たちが経験する物の見え方と違うはずである。その時に、僅かな差を修正 するなどの情報処理が身体の負担になっている可能性がある。たとえば、初めて眼鏡をかけた時や、コンタクトレンズを装着する時でさえ、普段ともの見え方が 変わり違和感を覚える場合がある。このような違和感が、身体への負担となっているのではないだろうか。このように、消費者として健康面における問題が解決 されなければ、日常的に使うものとして不安がある。したがって、3D映像のブームは、現在一時的に注目されるだけにとどまり、長続きしないだろう。

以前にも何回か3D映像がブームになったことがあったが、どれも長続きすることなく1~2年程度で終わっていた。まず1950年代にきた1回目の ブームでは、赤と青の色付き眼鏡で見るもので、このときは”立体的に見せる映像”というだけのコンセプトであり、モノクロ作品に限られてしまい、作品数も 少なく、本格的なブームにはならなかった。次にブームが訪れたのは、1970年代である。赤と青ではなく偏光をかけた眼鏡で見る方式で前回よりも技術面で は成長したものの、顔や眼鏡が傾くと正常に立体視できないことや、依然として肝心のソフトがあまりないなどの問題があり、これもすぐにブームが過ぎ去って しまった。3回目となる現在のブームは、偏光眼鏡が傾いても立体視が可能になったり、デジタル映像技術によって映像がより鮮明できれいになったりするなど 映像技術が進歩し、上映される作品も増えてきた結果、「3D元年」と言われている。このような科学の進歩によってこれまで課題が残っていたことが徐々に解 決されてきていることは確かだが、未だに健康面の問題が解決されていないのが難点だろう。今後もこの課題が解決されない限り、家庭で日常的に使えるように なるにはまだ早い段階であり、過去のブームと同じように、数年で現在のブームも下火になってしまうだろう。

しかし一方で、特定の専門的な領域では3D映像が既に有効利用されている場もある。たとえば、医療現場である。どのように使っているのか。それ は、手術映像を3Dで映し出すことによって、臓器の細部まで見やすく立体的に見せることができ、研修生達のイメージトレーニングを助ける役割をしている。 このような場では、3D映像の健康面への影響はそれほど問題とならないだろう。

以上のことから特定の専門的な領域では既に利用されているが、3D技術は課題が残されており、私たちの家庭にはまだ普及しないと考える。

参考文献
  • 神奈川工科大学情報学部 井上哲理 「立体映像の仕組みとその応用」
  • ロイター 10月4日のニュース(http://jp.reuters.com/article/idJPJAPAN-17500820101004
  • 国民生活センター「3D映画による体調不良」より(http://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20100804_2.html
  • みずほ情報総研「3Dテレビに対する購入意向およびその特性と普及要件 ―「3Dテレビに関するアンケート」調査結果から―」より(http://www.mizuho-ir.co.jp/publication/contribution/it/2010/businessi0423.html)

講評(講師:石塚廉)

Y君は今回、身近な生活に関わる科学をテーマに小論文を書くという課題について、「3Dテレビ」をテーマに設定し、考察しました。

彼の主張は、「3Dテレビには解決されるべき課題が残されており、まだ一般家庭に普及する段階ではない」というものです。その課題点として、健康 上の理由を挙げていますが、それは一般にインターネットなどで語られる内容を受けただけではなく、休日に映画館や電器店を訪れ、実際に3D映像を体験した ことによる彼自身の実感に基づいたものです。

インターネットは様々な情報を得ることができますが、ともすると他人の意見の受け売りに甘んじる結果を招く危険性が大いにありえます。Y君のあく まで自分で体験した上で議論するという態度は、そうしたメディアの情報を鵜呑みにしない=クリティカルな態度の現れであると思います。

この小論文は、度重なる推敲を経て完成を見ましたが、特に苦労したのが大幅な構造の変更です。この文章は大きく分けて七つのまとまり=意味段落で構成され、各意味段落の役割は以下のようになります。

  1. テーマの紹介:3Dテレビは私たちの生活でどのような役割を果たすのか
  2. 主題文の提示:3D映像の技術は既に実用化されていて、将来的な可能性も認めるが、「3Dテレビ」としての家庭への普及はまだ難しい
  3. 根拠の提示:健康面の問題の指摘
  4. 根拠に対する考察
  5. 3D映像技術の歴史的変遷の紹介と、3の強調
  6. 3D技術の可能性について別の視点からの検討
  7. 結論

初期はY君の主張は「3Dテレビは必要ない」という個人的な主張に留まっており、複数挙げた根拠について、それぞれがどのように関連しあって、ど のように主張を支えているのかが不明確でした。そのため、その点について細かく検討していると、より大きな視点=社会にとっての3Dテレビのあり方につい て、考える必要性が生まれていきました。たとえば、「現在の3Dブームも、一時のものでしかない」という彼の考えは、よく考えてみると「3Dテレビは必要 がない」という初めの彼の主張を支えることは難しいでしょう。それよりも「3Dテレビの普及」について考察する方が、ブームに対するアイデアも活きてきま す。さらに進めれば、もっとテーマの範囲を広げて「3D映像技術の今後の可能性」とすることによって、将来を見据えたより生産的な考察が可能になるでしょ う。

こうした検討をねばり強くおこない、完成させる過程で、Y君には自分の主張について説得的に論理展開するための構造的な視点を持つことができるようになって欲しいと思います。この小論文がY君のさらなる飛躍のための糧となることを期待します。

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