金沢旅行(中1・H君)

講評(講師:吉田真澄)

入室は、Hくんが小学校2年生へ進級する春休みでしたから、彼とともに本を読み、文章を指導して、既に5年が過ぎたことになります。

低学年時代は、とにかく読書に力点を置き、毎週貸し出した本についてのブックトーク(などという高尚なものではなかったことも……)で、互いに感 想を言い合いました。3年生の夏には『大力ワーニャの冒険』で感想文を書き、勤しんできた読書の成果を遺憾無く発揮。これが大きなきっかけとなって、ます ます読み書きに意欲と積極性を持てるようになったと記憶しています。

英国の古典ファンタジーはもちろんのこと、高学年に向けては、『古事記』や『水滸伝』、更にはフランス、ロシア文学……と、旺盛な読書欲は尽きる ことがありませんでした。この頃、お家の方からの連絡帳に、「書くことが日常になっています」というお言葉を頂き、指導講師一同、大変嬉しく思ったもので す。大宰府天満宮に詣でた様子を大きな模造紙いっぱいに書いて提出してくれたり、初めて自分で作ったお好み焼きについて臨場感いっぱいの作文を仕上げたり と、身近な題材から歴史や自らの将来についてまで、様々なテーマの作文に挑戦してきました。

受験生となってからも、難しい読解に挑戦する彼の傍らには常にぶ厚い本があって、せっつくように「今日のお薦め本は?」と毎週尋ねてきたHくん。 国立の付属中学に見事合格するまで笑顔を絶やさず、教室を休むことさえありませんでした。そのまぶしいばかりのバイタリティーに、いつも指導する私の方が 励まされていたのかもしれません。現在のHくんは、部活動で真っ黒に日焼けし、肩にくい込むほどに重たい荷物を抱えて、学校帰りに来室してくれています。

今回の作品は、ゴールデン・ウィークに訪れた金沢のお土産――金箔の美しい「あぶらとり紙」でしたが――を手渡してくれたとき、私が提案して取り 組み始めたものです。『深夜特急』を読み、トラベルエッセイの書き方を自分なりに学んだことも好機となったに違いないでしょう。予めシートに書きたいこと を整理しましたが、あとはほとんど一気に書き上げた格好です。手直しなどは敢えて入れず、Hくんの文章をそのまま掲載することに致しました。

この金沢への旅には、Hくんとは絶大な信頼関係で結ばれるお父様がご同行されています。ご両親の深い理解とあたたかな声援を受けて、健やかに成長されたHくんの現在の作品を、どうかみなさまもご堪能ください。

最後に、この作文を指導しましたのは、横田さやか、木谷さち子両講師です。長い間Hくんを担当してきた講師として、そして現在も同じコマで勤務しHくんの成長を見守る講師の代表として、拙文ながら、今回ご紹介の挨拶をさせて頂きました。

本文

『金沢旅行』

「つぎは金沢、金沢。終点です。お乗り換えの……」
特急はくたか号のアナウンスが鳴った。いよいよ金沢だ。鼓動が高なる。中学最初のゴールデンウィーク。僕は父と共に金沢へ行くことにした。三日間で金沢のすべてを知ろうという少し無謀な旅だ。僕達はまず金沢城に行くことを決めた。

暑い。三〇度程あるのではないか。だが僕は苦しくはなかった。石川門の中を見学することができたからだ。天井が広く木の色が濃い。こういった古さやにおい、雰囲気が好きなのだ。窓から入る光がとてもまぶしかった。そういえばここはとても暗い。この暗さも僕の好きな所だ。四五〇年前にもここが使われ、人が見張り、歩いていたかと思うと不思議な気分になった。外に出ると二種類の石垣が立ち並んでいた。それは石と石の間がほとんど空いていない、色も現代風の石垣と、少し間が空き、そこに小石がはめられている石垣である。間がないものは石の色がうすく、統一されており、現代的である。それに比べて間のあいた方にはコケが生えていたり、表面がゴツゴツしているので、人が手作業で次々にはめ込んだ感じが出ている。僕は野性的でゴツゴツ感のある間のあいている石垣に風情を感じた。

石川門を出てぶらぶら歩いていると、五十間長屋に着いた。中に入ってみるなりおどろいた。途方もなく長いのである。家に帰って調べてみると、約百 メートルもあったことが分かった。僕は長屋というと江戸の庶民の生活の場というイメージしかないので、あまりに城らしい五十間長屋には驚かされた。

五十間長屋を出ると、残るは金沢城の自然を感じるだけである。なぜなら、金沢城の本丸は跡しかなく、メインは石川門と五十間長屋だけだからであ る。それで僕らは気楽に写真を撮ることにした。説明し忘れたが、僕らは金沢の真髄を写真に収めるというプロジェクトも行っている。

金沢城一帯を見渡せる所へ来た。父が写真を撮ってくださいと家族連れに申しこまれている。父は了承し、カメラのピントを合わせている。僕は後ろからのぞいていた。ハイ、チーズで父が撮った。
「ブレた。完全にブレた」
力んでカメラをにぎりすぎてしまったのか。おそるおそる撮った写真を見ると、ブレていない。最新のデジカメの手ぶれ補正とかいうものに助けられたのだろう。

その後、ポカリで水分補給をしてあてもなく歩いた。一時間程して金沢城を一通り巡り終え、おおかた写真にも収めたので、次に兼六園に行くことにした。

初夏の兼六園。緑が映えている。桂坂口を入ってゆるやかな上り坂を上がると、人ごみにぶつかった。その人たちの目当ては徽軫灯籠(ことじとうろ う)。兼六園の案内板やパンフレットには、いつもこのスポットが出ている。近くに行ってよく見てみると、一つの列ができている。その列の先端には写真家が いた。折角の記念に一枚撮ってもらおうというのだ。僕らも並んだ。しばらくして順番が来た。二枚程写真をとってもらった。きん張し、頭の中が真っ白になっ た。僕は、人前に出て写真を撮ってもらうというのが苦手なのだ。

少したって現像した写真を見たが、背景といい灯籠との距離感といい、やはりプロは違うなと思った。兼六園にはこの徽軫灯籠以外にインパクトのあるものがなく、自然を満喫して終了した。日も暮れはじめ僕らもつかれたのでホテルに向かうことにした。

ホテルにつづく道ぞいに順風堂という九谷焼の販売を行う店があった。家の食器はすべて九谷焼で、その九谷焼はすべてこの順風堂で購入している。そ こに並んでいる品々は見覚えがあり、親しみがわいた。大鉢と小皿を買う際に店の人に金沢の観光名勝を教えてもらった。その語る熱心さに金沢の人々の地域に 対する誇りを感じた。

抹茶アイスを食べ、少しすずしくなった。二日目の昼。その日、僕は早朝に三十分ほど歩いて歴史博物館と県立美術館へ行った。歴史博物館では旧四高 にこしきゆかしい思いにふととらわれた。県立美術館では野々村仁清の色絵雉香炉を見た。その香炉は色あざやかでインパクトがあり、生き生きとしていた。

そして、ひがし茶屋街。ひがし茶屋街の建物はみな昔ながらの和風の建物で風情があった。ではなぜ風情を感じたのか。それは「素材」が大きく影響していると思う。ひがし茶屋街の建物は木がそのまま使われているので、独特の雰囲気をだしたのではないか。

その後、さくだ金箔工芸館へ行った。さきほどのひがし茶屋街の落ち着いた雰囲気とはうって変って、ここはきらびやかである。なにしろ全てが金色に光り輝いているのだ。日常では見ることのできない現実離れした華やかで美しい品々を目の当たりにし、言葉を失った。

最終日、帰りの特急でこの旅をふり返った。東京のビルばかりを見て育った僕は自然の名所を知らなかった。そのため、兼六園や金沢城は別世界のよう に映った。また、金沢の人々の地域に対する誇りや愛着を感じた。そして、三日間では「金沢のすべて」は知ることができなかったのかもしれないが、金沢の真 髄、エッセンスはしっかりと心に打ちこまれたように思う。



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