「捕鯨問題」について (中2・O君)

講評(講師:瀬戸隆文)

中学生のO君は以前から環境問題に関心を持っていた。夏休みの自由研究で、ゴマアザラシの乱獲問題を取上げたりもした。そこへ、南極海での日本の捕鯨調査に対するオーストラリア政府の非難声明や、グリーンピースの妨害が目に入ってきた。新聞を読んでも、事件の概要は分かるが、納得がいくような解説はなかった。講師に進められて読んだ「白鯨」という小説は長すぎた。特に前半は鯨のそもそも論ばかりで面白くない。途中で投げ出した。しかし、ひとつだけ驚きがあった。今、捕鯨禁止を声高に叫んでいる米国は、19世紀には世界の海を荒らしまわる捕鯨大国だった。

早速、ネットサーフィンを開始。日本捕鯨協会、外務省、日本グルーンピースのホームページにアクセスした。色々なリンクが貼ってあるので便利だが、おかげで波乗りはエスカレート。捕鯨の歴史を調べて今日までの背景をまとめた。次に各関係団体の主張を読んで、彼らの立場について考えた。世論調査の結果を見ると、けっこう、日本国民も海外の人も捕鯨賛成派が多い。自分が以前からぼんやりと抱いていた印象とは大違いだ。これらの発見を整理し、自分の考えをまとめてみた。

それがこの作品です。

本文

『「捕鯨問題」について』
中2・O君

<1.捕鯨概観>

1.世界の捕鯨史

捕鯨の歴史は古く、9世紀にはノルウェー、フランス、スペインが捕鯨を開始した。それから300年を経た12世紀には日本でも手銛による捕鯨が始まっている。18世紀に入り、米国も捕鯨に参加、これはアメリカ式と呼ばれるマッコウ鯨漁であった。もともと捕鯨はアラスカ、グリーンランド沿岸での食料獲得が目的であったが、鯨油は灯油、ろうそく、化粧油として、髭は女性用コルセットの材料として重宝された。19世紀に入り、ノルウェーで近代捕鯨が発展、捕鯨砲が完成し、ノルウェー式と呼ばれた。20世紀に入り捕鯨は本格化。オランダが世界最初の鯨工船にて出漁、ノルウェーも南ジョージア島に捕鯨基地を設営し、南氷洋捕鯨が開幕する。技術面でも、滑り台のような通路を使って鯨を捕鯨船から母船に容易に引き渡す、スリップウェーが導入され、解体作業行程の効率が向上した。乱獲の恐れから、1931年には第1回国際捕鯨協定が締結され、1948年には国際捕鯨委員会(IWC)が設立された。日本も1951年にIWCに加盟している。

IWC設立以降、世界的視野に立っての捕鯨管理が始まる。1962年には国別割り当て制が実施され、翌年には南氷洋でのザトウ鯨の捕鯨が禁止される。続いて、シロナガス鯨、イワシ鯨等の捕鯨も禁止され、新管理方式(NWP)が導入される。このような世界的な捕鯨自粛管理の流れの中で、各国も撤退を余儀なくされる。アメリカは早々と1940年に捕鯨中止を宣言していたが、1963年にはイギリスも中止、ノルウェーは南氷洋捕鯨から撤退した(1972年)。しかしアイスランドは1992年にIWCを脱退し、捕鯨独自路線を目指す(2006年に捕鯨再開)。ノルウェーも1993年には捕鯨を再開している。

2.商業捕鯨と調査捕鯨

捕鯨は二種類に大別される。一つは商業捕鯨である。商業捕鯨とは油や肉を鯨から採取し、それを食用にするために売る。そして売ったお金は調査捕鯨に回す(日本の場合)。

もう一つは調査捕鯨である。これは、鯨の生態系を知るために色々なデータを集め、そしてそのデータを基に鯨に対する種々の行動に活用していくことを目的としている(この場合、殺した鯨はデータにもするが、使用した鯨は安全かどうかを調べ、食用として販売する)。

<2.日本と捕鯨の今昔>

日本で捕鯨が本格的に始まったのは、江戸時代初期(17世紀)、町人や承認の数も増え、諸産業の発達、そして水産業、交通網が発達していった時のことだ。綱取り式の捕鯨が始まり、捕鯨が急速に普及する。江戸時代後期(19世紀)になるとロシア、アメリカ、イギリスの捕鯨船が太平洋岸に現れる。食料補給基地を日本に確保したいという彼らの目的が、日本の鎖国政策を揺さぶることになる。エイハブ船長が白鯨を追って世界の海を駆け巡っていたのもこの頃である。20世紀に入ると、鮎川に近代的な捕鯨基地が完成し、日本の近代捕鯨が開幕する。IWCに加盟した日本は1987年には南氷洋での商業捕鯨を中止し、調査捕鯨への路線へと切り替える。捕鯨が本格的に始まった江戸時代初期から約4百年後の今、最近の日本では、捕鯨をする際に鯨類を適切に管理し、科学的データを収集する目的で捕鯨をしているが、それが反捕鯨団体のグリーンピースなどの妨害の被害を受けている。グリーンピースなどはこの日本の捕鯨に対して次のように語っている。

<3.反捕鯨団体グリーンピースの意見>

問題の原因は南極海という公海で、しかも捕鯨禁止区域(鯨類保護区)で日本が捕鯨を行っていることにある。さらに、年間1千9百万トン(国内消費量の約3分の1)の食料を破棄している国は世界で日本だけであるにも関わらず、年間1千頭以上もの野生哺乳類を大量捕殺し続けている。さらに捕鯨には毎年、日本の国民税金が5億円も使用されている。国際社会の批判を浴びながら、国庫補助により調査捕鯨を続けることが果たして日本の国益につながるのか。

<4.捕鯨に対する日本の外務省の立場>

反捕鯨国に対しては、鯨も海洋生物資源の一つとして、科学的根拠に基づく保存を図る。さらに、持続可能な利用が認められるべきであり、捕鯨を続けられるよう、日本の立場に対する理解を他国に求めていく。そして保存管理のため、資源量の豊富な鯨種のみを対象とし、捕鯨調査に反対する国にねばり強く説明していく。

<5.世論>

反捕鯨国と鯨国の代表的な主張をそれぞれまとめてみる。

反捕鯨国 捕鯨国
減少鯨種が多くなってきたから捕鯨を止める。動物愛護・自然保護の観点からも妥当。 捕鯨の目的は鯨の生態系を知って鯨と環境を調べるためである。
調査捕鯨は擬似商業捕鯨である。 調査が終わった鯨の肉は日本政府の監督を受けて市場で販売される。これは国際捕鯨取締り条約の規定に従っている。
鯨を殺さなくても調査はできる。 現在、鯨と漁業の競合が世界的な問題となって来ており、鯨がいつ、どこで、何をどれくらい食べるかを知るには、胃の内容物を見るしか方法がない。
鯨を食べなくても、他に食べ物がある。 食べる・食べないの問題ではない。科学的・法的に捕鯨の持続的利用は認められている。
鯨は特別な動物である。 全ての動物が特別であり、掛け替えのない生命を持っている。他方、民族や国民が生き物に特別な地位を与えている。例えば、食料とみなされる牛もインドでは神聖な動物である。自らの特定の動物に対する価値観を他の民族や国民に押し付けるべきではない。

日本の水産庁が2001年に全国20歳以上の人、5千人を対象に行った調査によると(有効回収率69%)、「鯨の資源に悪影響が及ばないよう、科学的根拠に基づいて管理されれば、豊富なミンク鯨等を対象に、決められた数だけ各国が捕鯨を行うこと」に賛成76%、反対10%となっている。

MSN Japan(マイクロソフト社が運営するウェッブサイト)が2000年8月に行ったアンケート結果は、捕鯨賛成(58%)、反対(14%)、その他 (28%)であった。内容は以下のとおりであり、「商業捕鯨と調査捕鯨」とは異なる観点からのやや感情的な意見表明となっている。

賛 成

  • 鯨の数は増加中だし止める理由はない(13%)
  • 日本の食文化を守るべきだ(29%)
  • 反対派の陰謀に負けるな(16%)

反 対

  • 欧米を敵に回すべきでない(2%)
  • 賢い鯨を食べたらかわいそう(4%)
  • 鯨肉なんてどうせ必要ない(9%)

その他

  • 最大の問題は貧困な政治力(23%)
  • その他(5%)

捕鯨に関する世論調査は日本以外でも行われている。2002年5月の米国CNNと英国BBCの世論調査では、6割以上が商業捕鯨再開を支持する結果となった。

<6.自分の意見>

調査と商業の捕鯨については、日本は鯨を調査したあとで食用として売っており、しかも売上金は調査に充当しているので、その点は理屈が立つと思う。逆に商業捕鯨は油や肉という商品化が目的で、それで収入を得る商売をしている点は評価できない。

そんな捕鯨に反対するグリーンピースの大きな根拠は捕鯨禁止区域での日本の捕鯨実行ということであるが、日本の国民の税金が5億円使用されているという主張は、的外れであり、グリーンピースが目指す所とは関係がないと思う。

日本の外務省は多くの強力な反捕鯨国を前にして大変な立場に置かれているが、実際は、捕鯨国は日本だけではない。CNNやBBCの世論調査でも6割以上の人が捕鯨再開を支持している。他国との意見交換を密接にし、協力体制を検討してはどうだろうか。

参考書類

  • 朝日新聞の捕鯨関連記事
  • 以下のホームページ
    • 外務省
    • 日本捕鯨協会
    • 日本グリーンピース
  • 「白鯨」、H.メルビル著

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